26年夏アニメである「手札が多めのビクトリア」について、僕はアニメコインも賭けて、真剣に視聴することを宣言していました。このアニメの放送が終わってから1か月が経過し、ある程度考えがまとまってきたので、ここで一つ個別作品記事を書いてみたいと思います。
「手札が多め」というこの作品タイトルは、当然ながらTCGのことを言っているわけではなく、ビクトリアさんにとって取りうる選択肢が多いこと、多芸であることを示しているタイトルです。しかし、このアニメを1クール視聴した僕の感想としては、本当に彼女の手札は多かったのだろうかという疑問に戻ってきます。
確かにビクトリアさんは工作員として非常に優秀で、その手には様々な技術が染みついています。その技術によってできることがたくさんあって、貴族のパーティーで踊れたり、外国語の家庭教師ができたり、死刑囚の脱獄計画を完遂できたり、襲撃者を撃退したり、自身の痕跡を消して街からいなくなることができたりします。ですがこれは、手札がたくさんあるわけではないと思うんですよね。
Magic:the Gatheringで考えてみると、《緑の太陽の頂点》が4枚投入されていて、色々なデッキに対して特効性を持つカードが1枚ずつ採用されているデッキみたいな構成のことを「ツールボックス」と言い、《緑の太陽の頂点》のようなサーチカードで特定の対策カードを引っ張ってきて戦う戦術を「シルバーバレット(銀弾)」と言います。


こんな感じで、対戦相手がアーティファクトの起動型能力を決め手に使うデッキだとわかったら、緑頂点をX=2で唱えてピン挿しのアウフを持ってきて、相手の動きが止まっている間にこちらのやりたいことを通す……これがシルバーバレットです。
この戦い方って一見最強っぽく見えて、対戦相手のデッキについて理解できれば、理論上はどんなデッキに対しても勝てるのですが……当然ながら、実際にはそんなにうまくいくことはなく、むしろ歴代の強力サーチカードがありながら、シルバーバレット戦術のデッキがトップメタを取っていたことはほぼありません。そういうデッキがメタ上にいる時は、大体シルバーバレットもできて、その上でサーチ手段で簡単に集められる即死コンボがあるみたいな時だったと思います(初期出産の殻は本当に外れ値という認識)。
シルバーバレットにおいて核となるのが様々な銀の弾にアクセスするためのサーチカードで、このサーチカードによってデッキという大きな箱の中から必要な道具を取り出してくるから「ツールボックス」ともいうわけですね。
ここでようやく話がビクトリアさんに戻ってくるのですが、ビクトリアさんの選択肢の多さというのは、単純にたくさんドローして手札を物理的に増やしているわけではなく、工作員としての経験というデッキの中から、その時々対処したい状況に応じて最適の札を持ってくる、まさにこのツールボックス的な疑似手札の多さのように思われました。言ってしまえば対処療法であり、それだけでは勝てないんですよ。ビクトリアさんの手札の多さでは。
更に話をややこしくするのですが、ビクトリアさんのサーチカード(工作員の技術)は《緑の太陽の頂点》ほど強くないんですよね。MtGをやっていない人にもわかりやすく説明すると、緑頂点というこのカードは歴代の緑のクリーチャーサーチカードの中でも本当に桁違いに強いです。総合力で言えば歴代最強に限りなく近いです。
このほかにも何度も緑のクリーチャーサーチカードは刷られていて、それらも尖っている部分やその時代背景、カードプールなどの理由により使われてきました。そんな中で僕が一番ビクトリアさんのやっていることに近いな~~と思ったのがこちら。

《異界の進化》です。これもめっちゃ強いサーチカードです。緑頂点が使えないフォーマット(パイオニア。緑頂点が禁止されていた時代はモダンも。)では、一番使われている緑のクリーチャーサーチではないでしょうか。今回の記事で大事なのは、「サーチするために別のクリーチャーを生け贄に捧げなければいけない」ということです。まんまですね。
もはや説明するまでもないですが、ビクトリアさんは工作員の技術を得るために幼いころから家族との生活を捨て、名前を捨て、部下を守れず、上司への信頼の気持ちは裏切られます。組織を抜け出す時にはお気に入りの靴とこれまでの生活を捨て、祖国語を捨てます。逃亡先での生活においても、ノンナさんとの時間を捨て、知り合った心優しい人たちを捨て、心地よい家を捨て、愛してくれる男を捨てて、そうやってツールボックスを起動し続けます。
なんで緑頂点が歴代最強クラスに強いかと言うと、使った後墓地ではなく山札に戻るからです。通常4枚デッキに入っているカードは一度使うとデッキには残り3枚になりますが、緑頂点は常にデッキに4枚入っている状態を維持できます。つまり、次の対処すべき事態が生じた時の対象可能なカードの枚数が多いのです。これがシルバーバレットにおける強さに直結します。
ところがビクトリアさんのサーチカードは異界の進化なので、何かに対処した時、次の対処すべき事態が生じると本当は捨てたくないものや過去の対処の結果得たものを生け贄に捧げなければならず、加えてデッキからどんどん対処札の枚数は減って行き、最初の頃と同じようには気軽にツールボックスを起動できなくなっていきます。彼女に対する監視の目が強まるにつれ、慎重な行動を強いられ、犠牲にしなければいけないものが大きくなるということです。
これは本当につらい戦いで、消耗戦をやりながらやせ細っていくリソースを使い、本当に必要なものだけは相手から守り、そうやって負けない戦いを繰り広げているうちに最後は偶然にも山札の一番上から最後のパーツを素で引いてきて、なんとか勝利にたどり着く戦いです。
この全9話で、ビクトリアさんは最初に手に入れた最も大切な勝利のパーツであるノンナさんを守り切り、負けないように耐え忍んだ先に、最後にはやっと一度は諦めたジェフリーさんを再びトップデッキして、なんとか幸福にこぎつけるんですよ。
この「なんでもできる」わりに苦しくてしょうがない戦いの過程が、僕が愛してやまないツールボックスデッキと似ているからこそ、僕はこのアニメのことが好きになったのかもしれません。
なんでもカードゲーム君みたいな記事になってしまいましたが、作品が掲げる「手札の多さ」が直感的な「手札の多さ」とは違うというところを足掛かりに、僕がなぜ本作を好きなのかを整理できたかなと思います。手札が多めのビクトリアのアニメが好きだった人は、MtGを始める時是非ツールボックスデッキのことを思い出してみてください。一緒に苦しい戦いを、しよう!